店の裏へゴミ袋を運んだところで、ソテツは煙草に火をつけた。肺に吸い込んだ紫煙を口から吐き出して、視界に入ったゴミ捨て場に色を見つけて思わずそちらへ目を向ける。黒い業務用のゴミ袋の合間に——ちょうどソテツが上から置いた袋とは少し離れた場所に——見えたその色が気になって、寄りかかった壁から背を離して近づくとそこにあったのは花だった。ややしおれてはいるがまだ生き生きとしたその花は大きく分けると二色しかなく、それだけで恐らくフラスタの花だということが知れた。しゃがみ込んで、目についた黄色の花を一輪そこから抜き取った。それを陽にかざすように持ち上げ、路地の壁を背景に打ち捨てられてもなお咲く花に別に思うところはないが、綺麗ではあるなと考える。
煙草をくわえたまま花を持ち、ぼんやりしているソテツの耳に革靴の音が入った。そちらを見ればケイが歩いてくるのが見える。帰るところなのかいつも通り手ぶら、に見えたその手に花束が握られている。
「よう、ケイ。それ何持ってんだ?」
「ソテツか。フラスタから作った花束だ。運営がシンの真似事をして作ったらしい」
「は? シンが? そんなことできるのか、あいつ」
「さてな。知らぬが俺に宛てられたフラスタから作ったからと渡してきたものだ。貴様も戻れば渡されるであろう」
「ふーん…」
黄色とピンク、白とあまりに色のないわりに上手くまとめられたそれにシンも芸達者だよなと考えつつ、その手にある小さな花束を見る。話を聞くに、ゴミ捨て場に打ち捨てられたあの花はそれに使われなかったものなのだろう。選ばれた花と、選ばれなかった花。
ケイが胸の前あたりに持ち上げたその花束から一輪、抜き取って鼻を寄せると先ほど抜き取ったまま左手に持った花よりも青々とした植物の匂いがした。何を言うでもなくそれを見ていたケイと視線を合わせ、その青い瞳を見つめる。やや怪訝そうなその表情に小さく笑って、声をかける。
「なあケイ、これ貰うぜ。代わりにこっちやるよ」
「? なぜ貴様が花を持っている」
少し首を傾けて動きで疑問を表すその癖に、ケイの生い立ちを見るようで少し愉快だった。かけられた質問に答えることなく、左手に持っていた少ししおれた黄色い花を押し付け、ケイの隣を通り抜けて店の裏口へ足を向ける。
首だけをひねってこちらを見るケイを一瞬視界に映して、くわえたままだった煙草を指に挟んだまま右手を後ろ手に振る。そうして左に持った花に再び鼻を寄せると、青い草の匂いが、鼻を抜けた。
エントランスで見た覚えのあるあの黄色い花は確かガーベラだったか。ポラリスに『日光』の意を持つ花を押し付けるとは我ながら愉快だった。