「万次郎、一応聞いとく。
アイツは、東卍か?」
答えを一つ間違えれば目前に立つ白い豹は何の躊躇も衒いもなく二人を殺す。
そう言われてもいないのに万次郎ははっきりと確信していた。
立ち上っているのはきっと殺意だった。黒い龍の傍らで共にその腕を振るった白豹が仇を殺すべくその本能を剥き出しにして佇んでいる。ポケットに入れられたままの手元は見えず、ゆらゆらと全身を揺らしていた。
こうして尋ねに来たのは、万次郎が『真一郎が黒龍を託そうとするほど愛した弟』だからに過ぎない。そうでなければこんな問いを行うまでもなく仇討ちに動いていただろう。
「場地は今でも東卍だ。一虎がどうかは正直、答えられねぇ。でも、ケジメはオレがつける。ワカにもそれは譲れねえ」
「…そ。じゃあ、一先ずはソレでいい。ただし、オマエがアイツを許さず、殺しもしてなきゃその時は、オレがアイツを殺す」
「わかった」
「じゃあな、万次郎。……、衝動に呑まれんなよ」
「!…、ウン」
立ち去っていく若狭の背で、少し伸びた髪が揺れている。それを見つめる万次郎の腹の奥で黒い暗い衝動がぐるりとその牙を剥いて吠えていた。