旅路

男は語る。電子の中で街を作りながら。

「寂しくなるけど、まあ大丈夫っしょ。メリッサは」

 

女は零す。おにぎりを食べながら。

「寂しいねぇ…、でもメリーは元気でやってるよ。ハガキくれるんだよね」

 

男は喋る。猫と共にカレンダーを見やりながら。

「今週はもうないんだよね。…猫!おいで、チュールあげよう」

 

猫は鳴く。

その背の旅立った方角へ。今もなお進み続けるその方角へと。

 

 筏に乗り、船に乗り換え海を渡る。身一つで進み続けるその背はまっすぐに伸びてゆらゆらと長い髪と服の尾が揺れる。

 時折その口からは歌声が溢れ、周囲へと響き渡っていく。その瞳には人々の営みが映り、瞬きとともに記憶へと落とし込まれる。永く生きたその記憶は徐々にこぼれ落ちていくが、それを一つ一つ丁寧に映し取るようにその緑の瞳に反射して煌めく。

 かつりかつりと赤いヒールが地面を鳴らし、進んでいくその手には街で買ったパンがあった。船を降りてから漂う良い香りに釣られて焼きたてのパンを買い、齧りながら石畳を進む。鼻歌を歌いながら、楽しそうに美味しそうに街を人を眺めて進むその背が徐々に人々の喧騒の中の埋もれてゆく。

 それを見つめていた烏が一つ、鳴いた。