夏の色

 波が浜へと砂を運んで、そうして引き返していく。

 浜辺に立った足がその波にぶつかられ、徐々に徐々に砂の中へと埋まっていく。足に当たる海水は冷たく、ズボンを捲った足首がその水で冷やされていた。

 

「まゆーー!ボート!借りれた!」

「バイクで引っ張ってくれるバナナボートもあるらしいから乗らん⁉︎」

「いいよ」

 

 紫色のビニールボートを抱えた不破くんとこちらに手を振る明那が砂を蹴って駆け寄ってくる。海の家で見つけた紫のボートを借りてくると意気揚々と向かったのはつい先ほどのことだった。

 近づくべく一度波の当たる位置から離れて二人の方へと歩いていく。その背をじりじりと夏の日差しが照りつけていた。帽子を被っていても照りつける灼けそうなほどの日差しは普段外に出ない人間にはとても堪える。

 近づいた二人の言葉通り、奥に見える海の家にはバナナボートを謳う看板があった。前を通り過ぎた時に見かけたな、と思いつつ了承するとパッと楽しげな笑みを浮かべた明那が海の家へ向かって戻っていく。

 

「まゆ、飲みもん買ってきたからあげる」

「ありがと」

「ん!」

「あ、ちょっと待って。連絡きた」

「おけ〜。そういえばうーちゃんとも今度遊ぶんだって?この前スタジオで言ってたよ」

「そう。ぶるーずでご飯行くよ」

「まゆー、ふわっちー!時間制らしいからもうちょっと経ってからだって!今何時?」

「十一時二十分だね」

「じゃああと十五分くらい。それまで遊んでよーぜ」

「ボート乗ろ!」

「ん、行っておいでよ」

「いや、まゆちゃんも乗るんだよ」

「荷物見てるから」

「そういうと思って防水バックあるんだな、これが」

「ええやん」

「えー・・・」

 

 スマホと財布、それくらいしかないが荷物番を決め込もうとすればささっと差し出された防水ケースに荷物を放り込む明那に先手を打たれる。同様に差し出されたケースにスマホを詰め込んだ不破くんも笑顔で海を指差していた。

 とりあえず飲み物を砂浜に置いておこうと少し海から離れたところに置いて振り返る。すると、海へ向かって歩いていたはずの二人が走り出していた。

 二人が海へと走っていくその背をスマホで一枚、写し取った。

 そして画像を確認する黛を呼ぶ二人の声が波の音を打ち消す勢いで響いて、それにまた一つ笑って黛もまた足を進めていく。

 三人の頭上高く、入道雲が浮かんでいた。