「いらっしゃいませ、ごゆっくりご覧ください」
店内に入ってきた客へほぼ反射的に声をかける。ちらと視線を向けると背の高い色黒の男性が一人。あまりみた記憶もないが、様々な店舗が並び様々な人が訪れるこの辺りの街ではよくあることだった。
他の客もいるため注視するのもと思い、視線を横にずらすもののその背格好と顔のせいでどうしても横目で見てしまう。
とろりとした橙の瞳が試着した眼鏡越しに反射している。
スクエアもいいがウェリントンやボストンも似合うだろう。単色より琥珀色のフレームなんかも似合いそうだ。
そう考えながら陳列されたメガネを整理しつつ店内を見渡す。ゆったりと歩く男は、今度はサングラスを物色しているようだった。
巡らせる思考を遮るように女性客に声をかけられて応対する。いくつか確認事項と案内をして度数測定の店員へとバトンタッチ。感じの良いお姉さんに少し気分も上がる。
と、そこへ低い声で話しかけられる。
お客さんだなと返事をしながらパッと振り向いたが視界に映ったのは白いシャツ。お、と思いつつ視線を上げれば先ほどの橙の瞳の男性だった。
「これとこれ、お願いできるか」
「はい、眼鏡とサングラス一点ずつですね。度はメガネのみにされますか?」
「ああ、それで」
「ブルーライトカットも案内できますが」
「いや、それはいい。サングラスの方をカラーレンズにして欲しいんだが」
「かしこまりました。色が…、こちらが一覧です」
ぽんぽんとすぐに返される言葉に一つずつ確認しながら、サングラスのレンズ一覧を渡す。
その間に度数測定のための準備をしつつ渡されたフレームを確認すると、ウェリントンの半透明グレーのものだった。少し太めのフレームだからかけると印象が変わるのも似合いそうだなと思う。店員に声かけずにささっと選んでくるあたり自分に似合うものも印象を変えるものも理解しているのだろう。
「この色で頼む」
「ブルーですね、かしこまりました。ではこのまま度数測定に入りますのであちらのスタッフがご案内します」
「どうもな」
こつこつと足音を立てて歩いていく背はすっと一本通っていてダンスでもやってるのかもなと思いながらその背を見送る。なんだか黒豹みたいな人だったな。
ぼんやりとイケメンな人だったなぁと思いつつ戻ると再び別のお客さんに声をかけられる。気づかれないように一つ息を吐いて接客に戻った。
最後にちらと見えた男性は度数測定の機械が小さく見え、似合ってなくて少し面白かった。
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「眼鏡か、珍しいな」
「ん?ああ、ケイか。良いだろ?いつもと違う雰囲気ってのも」
「ふむ…、変装用に見えるな」
「ははっ、どう思う?」
「ふっ、深く追求はしない。……、ああそうだ。次のショーだが貴様の衣装はサングラスだそうだ」
「ふーん?珍しいな。吹き飛ばさんように気をつけないとな」
会話する二人のもとへ銀星が通りかかる。見つけた、と言わんばかりの表情にその顔が視界に入っていたソテツが怪訝そうな顔をした。
「ソテツ、ちょうどよかった」
「やっぱ俺か。なんだ?」
「ケイもなんだけど運営が呼んでる。なんか衣装のサングラスの色をピンクにしちゃったから合うかどうか見てほしいって」
「ピンク?俺がピンクってガラかよ」
「まあ、似合うんじゃないか?」
「それくらいの色の違いは構わん。が、運営のミスを看過するかは別の話だ」
「まあつけろっていうならつけるけどな…」
「ともかく事務室へいくぞ。他の衣装まで差異がある可能性もある」
「おう」
そのまま三人が事務所へと足を向ける。運営がまた叱られるのも全く響いていないのももはやスターレスのいつもの光景だった。