BL

Q

  徐々に崩壊してゆく世界の中でも変わらず2人の男がCatsbyにいた。 スプリング・レスを見つめるべく扉を開け放ったままの店内には2人しか姿はなく、扉の外にもまた人影はない。あれほどいた人々は崩壊のしていない安息地を求めて何処ぞ…

碧と橙

 「付き合うか?」「は?」  ふと思いついてはなった言葉に、想定よりも低く平坦な声が返って来る。吸い込んだ紫煙を薄く開いた唇から吐き出して、声の主へ目を向けた。 意味が分からないと言うまでもなく語っているその目に、込みあ…

 その存在を高らかに示すようにショーウィンドウの最前、ガラス一枚を隔てたそこにバブを置いた。これまで自分が黒龍として乗ってきた間についた傷を一つ一つ確かめるように拭って磨き上げる。ハンドルから全てのパーツを順に確かめ、整備していく。これまで…

陽炎

  ホースから撒いた逃げ水の先、陽炎がゆらめくその上で見慣れた、けれどもう決して見ることのないはずの姿が見えた。 刺繍の入った真っ黒の特攻服に白いベルト、ブーツを履いたその出立ちは視界に入った足元だけで誰がそこに立っているかを如実…

Shall we…?

  肌を刺すような冷たい風が砂浜に立つ三ツ谷の頬に吹きつける。共に単車を転がして海へとやってきたドラケンと二人で砂浜に下りてきたが、揃って冷え切ったその鼻と頬は赤く染まっていた。 いつもの上着に加えてマフラーを巻いた三ツ谷は寒そう…

Misty Nail

 人気のない墓地の中、ずらりと並ぶ墓に紛れて一人、男が立っていた。綺麗に磨かれた一つの墓石の前で光を反射してきらきらと長い銀髪が鈍く輝いている。嫌に晴れた八月の空の下で墓石に向かって立つ男の表情は垂れた前髪で窺えず、ポケットに突っ込まれた片…

シン黒SSまとめ

1烏は空を翔け、狼は陸を駆ける。狼の牙の向かうところを烏は知らず、烏の爪の向かうところもまた狼は知らず。されど刈り取る命は1つ。 2鼻を抜けていく潮風の匂いが喉を通り、飲んだわけでもない塩辛い海水の味が口に広がる気がした。それを誤…

然る者

 掌に感じる鉄は冷たく、こんな小さな物で簡単に殺せるのかと他人事のように思った。  寒々とした空きビルの上層、外の夜景から差し込むネオンの明かりだけが室内を照らしている。東卍所有のこのビルは何時であっても空いたままだ。周囲には息の…

女教皇

「秘密主義って言うんだっけ?ソテツってよくわかんないこと多いよね」「珍しいなお前がそんな話振ってくるの。だいたい、この店にいるやつは大抵そうだろ」「まあ、そうなんだけどさ…。昨日、お客さんがそんな会話してたんだよね、ソテツは色々わからない〜…