幻影の香りの先に
ポタポタと何かが手首から垂れていく。散々殴られ、切り付けられた身体はいうことを聞かず転がされるままに床から起き上がることも出来ないでいた。 後ろ手に親指にかかる感触はおそらく結束バンドで、鬱血しそうな勢いで両指をきつく締め上げられている時…
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眼鏡
「いらっしゃいませ、ごゆっくりご覧ください」 店内に入ってきた客へほぼ反射的に声をかける。ちらと視線を向けると背の高い色黒の男性が一人。あまりみた記憶もないが、様々な店舗が並び様々な人が訪れるこの辺りの街ではよくあることだった。…
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Make up
「ニコラシカ、そんな色のシャドウ持ってた?」「この前買ったのよ。セクハラ野郎からお小遣い貰ったから」「貰ったっていうか盗った、でしょう」「別にいいじゃない?勝手に触ってくる奴が悪いの」「店でやってなきゃいいわ」「勿論。オーナーに怒られるじゃ…
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呑んだくれ
カラン、と鳴るドアベルは本来、客の訪れを知らせる音だ。しかし、ドアの正面奥にあるカウンターに立つ店主らしき男はこちらには目もくれずグラスを磨いていた。 コツコツと木板の張られた床を踏み、店内へ身を滑らせる。少しばかり小さな音でバラードが流…
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声
キーン、と高く打ち上がった球がセンター外野を走る天宮のミットに危なげなく吸い込まれるように落ちていく。 その様をベンチでちひろにかけられたタオルの下から覗く瞳が見ていた。 六回を抑えた黛の息は未だ上がったままで、呼吸に合わせて揺れるタオル…
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夏の色
波が浜へと砂を運んで、そうして引き返していく。 浜辺に立った足がその波にぶつかられ、徐々に徐々に砂の中へと埋まっていく。足に当たる海水は冷たく、ズボンを捲った足首がその水で冷やされていた。 「まゆーー!ボート!借りれた!」「バイ…
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旅路
男は語る。電子の中で街を作りながら。「寂しくなるけど、まあ大丈夫っしょ。メリッサは」 女は零す。おにぎりを食べながら。「寂しいねぇ...、でもメリーは元気でやってるよ。ハガキくれるんだよね」 男は喋る。猫と共にカレンダー…
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問答
「万次郎、一応聞いとく。 アイツは、東卍か?」 答えを一つ間違えれば目前に立つ白い豹は何の躊躇も衒いもなく二人を殺す。 そう言われてもいないのに万次郎ははっきりと確信していた。 立ち上っているのはきっと殺意だった。黒…
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蘇鉄の実には毒がある
目次一、或るビリヤードバーの客の話二、或るカフェ店員の話三、或る不良の話四、或るスタッフの話五、或るコンビニ店員の話六、或る女の話 あとがき***一、或るビリヤードバーの客の話 今日もいる。 飲み屋街の奥まっ…
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あめ
思いついたままゴキを走らせ、懐かしい道を駆けていた。速度を増すゴキと一体になるような感覚に身を任せ、風を切る。湿度を含んだ風が頬と首を撫でて通り過ぎていく。耳元で解いたままの髪がバタバタと音を立てていた。 気がつくといつか来た海のそばまで…
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