cpなし

 ふと瞼を開くと目の前には黒々とした闇が広がっていた。暗すぎてろくに自分の手すら見えないが、椅子にでも腰掛けているような体勢で体重を預けているのが体に当たっている硬い感触でわかる。教室にいたはずだが、いつの間にか寝てしまっていたのだろうか。…

Dead men tell no tales.

 全身が焼けるように痛みを訴え、雑に頭に引っ掛けられた袋で塞がれた視界では自分の傷の具合すらわからない。手元にはとうの昔にマイクはなく、ナイフもない。あったとして散々嬲られた手では碌に物を掴むことも叶わなかっただろう。 手足を縛ったテープが…

#00B7CE

 出そうになる嘆息を呑み込むように一つ息を吸い込むと、沖縄料理独特の調味料の香りとその遠くに微かに潮の匂いが鼻を抜ける。外に面した壁一面のガラスから強い日差しが差し込み、足元に幾何学模様を作り出して乱反射した影が映っていた。足元から反射する…

揺蕩う

 とっぷりと日の暮れた海沿いを一両の電車が走ってゆく。街灯の少ないそこは車両内の電気だけがぼんやりと外を照らしながら線を辿るように進んでいる。 日の暮れた郊外のその電車にはたった1人しか乗っていなかった。まして、12月24日の夜、都心へと向…

 カウンターで受け取った小銭をポケットに突っ込み、空いたもう片方の手で紙製のカップを手に取った。スリーブがついたそれはじんわりとソテツの手へと熱を伝える。 カップを持ち上げると店内に漂っていた挽いたばかりの珈琲の香りが一層強く立ち上った。 …

思考

 五条悟は思考する。 考える時間だけはあった。獄門彊の中にいる以上、周囲にいる骸の相手をする以外にできることは少ない。ましてこの程度の相手に不足を取るほど弱くもない。 だから思考を巡らせた。ここに入る直前まで見ていた顔の男のことを。当然、中…

オーダー

フェス会場のバイトは目を灼くような暑ささえ除けば割のいい仕事だった。時給も高いし、基本的にカウンターで商品を渡すだけだ。少々気分が高揚しすぎた客はいるものの、不機嫌な酔っ払いはそういない。下手な居酒屋よりずっと稼げるこのバイトを続けてしばら…

 寮の自室。身体が熱く、訓練での熱が抜けきっていないのかと考えつつ畳にごろりと横になる。鼻に香るい草と、頬に触れるその冷たさを感じた。訓練室でも借りて自主練すべきだろうか。どうにも身体に熱が籠っている。最近は授業やら訓練やらで自分の「炎」の…

体温

ぞわりとした寒気が突然、背筋を駆け抜けていく。うなじの産毛が逆立ったような錯覚を覚えながら、どこかまとまらない頭をどうにか回して、北斗は廊下を歩いていた。 今日は朝からどうにも調子が悪い。自分だけ重力が増したかのような身体を押してESビルに…

倉庫のCD

 雑多に物が置かれた倉庫の一角、積まれた本が崩れてこないのがいっそ不可思議なほど詰め込まれているようにも見える。ただでさえ狭いその倉庫に立つ男はその体躯ゆえに、貧相な身体の細い運営がそこに立っているよりも遥かに窮屈に見えた。 本の並ぶシェル…